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賞味期限は誰が、どう決めている?|消えた「0.8」と3分の1ルール

2026.11.05 公開 / 2026.11.05 更新

賞味期限の日付は、国が決めているわけではありません。つくった会社が試験をして、多くの場合はその結果より少し手前に日付を置いています。その「少し手前」の目安として国が示していた0.8という数字が、2025年3月のガイドライン改正でなくなりました。お店に並ぶまでにも、「3分の1ルール」という独特のものさしがあります。食品の一生を1本の帯にして、数字で見ていきます。

賞味期限は「おいしさ」、消費期限は「安全」

食品の期限表示には2種類あります。どちらも、食品表示基準という国のルールで意味が決まっています。

種類意味(食品表示基準 第2条を要約)主な食品の例
消費期限決められた方法で保存したとき、傷むなどして安全性を欠くおそれがない期限弁当、サンドイッチ、惣菜など
賞味期限決められた方法で保存したとき、期待される品質が十分に保たれる期限菓子、カップめん、缶詰など

注目したいのは、賞味期限の定義の最後に付いている一文です。そこには「当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする」と書かれています。国のルール自体が、賞味期限を過ぎても品質が保たれていることがある、と認めているのです。消費者庁も、賞味期限を過ぎた食品が必ずしもすぐに食べられなくなるわけではない、と説明しています。一方で、消費期限を過ぎた食品は食べないように、とはっきり書いています。

そして、どちらの日付も、決めているのは国ではありません。その食品をつくった会社など、表示に責任を持つ事業者です。微生物の試験、成分の変化を調べる試験、人が味やにおいを確かめる検査などの結果をもとに、自分たちで決めています。

日付の決め方は「試験の日数×安全係数」

試験で「100日目までは品質が保てる」と分かっても、100日目をそのまま賞味期限にするとは限りません。想定より暑い場所に置かれるかもしれませんし、同じ商品でも1つずつ少しずつ違います。そこで、試験で分かった日数に1より小さい数をかけて、日付を手前に置くのが一般的なやり方です。この数を安全係数と呼びます。

賞味期限までの日数 = 試験で品質が保てると分かった日数 × 安全係数
例:100日 × 0.8 = 80日

安全係数が0.8なら、試験で確かめた日数の8割の時点が賞味期限になります。残りの2割は、いわば「余裕」です。

この0.8という数字は、国が示した目安でもありました。消費者庁の「食品表示基準Q&A」(2015年)では、安全係数は食品の特性に応じて「0.8以上を目安に設定することが望ましい」とされていたのです。自治体が事業者向けに配る説明資料でも、計算例にはよく0.8が使われてきました。

2025年3月、「0.8」の目安が消えた

ところが実際には、目安よりもさらに手前に期限を置く例が多くありました。ガイドラインの見直しにあたって消費者庁が事業者を調べたところ、安全係数を0.8未満にしている品目が約40%ありました。加圧加熱殺菌したレトルトパウチ食品や缶詰のように、もともと安全性が十分に確保されている食品にまで、安全係数をかけている例も見つかりました。

必要以上に短い期限は、まだおいしく食べられる食品を、早く捨てることにつながります。そこで消費者庁は2025年3月28日、「食品期限表示の設定のためのガイドライン」を全部改正しました。安全係数については、次のように書かれています。

食品の特性等によるが、安全係数は1に近づけること、また、差し引く時間や日数は0に近づけることが望ましい。消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドライン」(2025年3月)

あわせて、微生物の増え方という面では、レトルトパウチ食品や缶詰のように微生物が増えにくく、品質のばらつきも小さい食品は、安全係数を考える必要はない、という考え方も示されました。0.8という目安は消え、「食品ごとに根拠を持って、できるだけ1に近づける」に変わったのです。

もちろん、何でも1にしてよいという意味ではありません。微生物が増える可能性や品質のばらつきが大きい食品には、その特性に応じた安全係数が必要だ、ともはっきり書かれています。改正案への意見募集では、日本生活協同組合連合会が、安易に根拠なく安全係数を1に近づけると、消費者を巻き込む品質トラブルにつながる可能性がある、という意見を出していました。目安の数字がなくなったぶん、根拠を自分で示すことが、つくる側にいっそう求められるようになったといえます。

短すぎる期限の、もう1つの問題:ガイドラインには、こんな事例への注意も書かれています。過度に低い安全係数で期限を決めたあと、在庫を減らすために期限の表示を貼り替え、消費者に誤解を与えた——。短すぎる期限は、捨てる量を増やすだけでなく、表示への信頼まで傷つけることがあります。

お店に並ぶまでのものさし「3分の1ルール」

期限が決まった食品は、卸を通ってお店に届きます。ここでもう1本、独特のものさしが登場します。食品業界の商慣習、いわゆる「3分の1ルール」です。

農林水産省の説明では、製造日から賞味期限までの期間(賞味期間)の3分の1以内に、小売店に納品するという慣例です。賞味期間が6か月(180日)のお菓子なら、製造から60日を過ぎるとお店に納品できなくなります。賞味期限まで、まだ120日も残っているのに、です。間に合わなかった商品は行き場を失い、廃棄になることがあります。

ものさしは、上流に行くほど厳しくなることもあります。農林水産省が公表している資料には、小売店の「3分の1」に間に合わせるため、卸売業者が自社の受け入れ期限を賞味期間の6分の1(3分の1のさらに半分)にしている取引条件の例が載っています。180日の商品なら、製造から30日で、もう卸に入れなくなる計算です。

この慣習を見直そうと、国は納品期限を「2分の1」に緩める取り組みを進めています。180日の商品なら、納品期限は60日から90日に延びます。農林水産省のまとめでは、納品期限を緩めた(または緩める予定の)食品小売事業者は、2022年10月時点の240事業者から、2026年10月時点で393事業者に増えました。

もう1つの工夫が、賞味期限の年月表示です。製造から賞味期限までが3か月を超える食品は、日付を書かずに「2027年3月」のように年と月だけで表示できます。日付まで書くと、お店にある在庫より賞味期限の日付が早いという理由で納品できない、といったことが起きます。年月でまとめて表示すれば在庫と納品する商品の期限がそろい、こうしたことが起きにくくなります。年月表示などに取り組む食品メーカーは、2026年10月時点で377事業者です。

食品の一生を、1本の帯で見る

ここまでのものさしを、1本の帯にまとめてみます。試験で分かった日数と安全係数を変えると、賞味期限と、それぞれの納品期限が動きます。

区切り製造からの日数
卸の受け入れ期限(6分の1の例)30日
小売への納品期限(3分の1ルール)60日
納品期限を緩めた場合(2分の1)90日
賞味期限180日
試験で品質を確かめた日数225日

賞味期限は製造から180日。そのうち、3分の1ルールで納品できるのは最初の60日だけです。試験で確かめた225日までは、まだ45日の余裕があります。

説明のための単純な計算です。日数の小数点以下は切り捨てています。実際の納品期限や販売期限は、取引先ごとの条件で決まります。

たとえば試験の日数が225日のまま、安全係数を0.8から0.9にすると、賞味期限は180日から202日に延び、3分の1ルールの納品期限も60日から67日に延びます。安全係数と納品期限という2本のものさしは、掛け算でつながっています。手前のものさしを少し緩めると、その先のものさしも一緒に緩むのです。

数字で見る食品ロス

農林水産省と環境省の推計では、2024年度の食品ロスは約461万トンでした。そのうち、食品をつくる・卸す・売る・提供する事業者から出る「事業系」が約237万トン、家庭から出る「家庭系」が約224万トンです。

区分2024年度前の年度から2000年度からの減り方
事業系約237万トン約6万トン増56.7%減
家庭系約224万トン約9万トン減48.3%減
合計約461万トン約3万トン減—

国は、事業系の食品ロスを2030年度までに2000年度比で60%減らす目標を掲げています。2024年度は事業系が前の年度より増え、56.7%減にとどまりました。事業系の内訳を業種別に見ると、食品製造業が110万トン(46%)と半分近くを占めます。期限の決め方や納品のものさしは、まさにこの部分にかかわる話です。

買う人・つくる会社にできること

買う人

  • 賞味期限と消費期限を見分ける。消費期限を過ぎた食品は食べない
  • 賞味期限を過ぎた食品は、すぐに捨てずに、見た目やにおいなどで食べられるかどうかを確かめる。異常があれば食べない
  • 期限は「開けずに、表示どおりに保存した場合」の日付。開けたら、期限にかかわらず早めに食べる

つくる会社・売る会社

  • 安全係数を、根拠を持って見直す。新しいガイドラインは、1に近づけることが望ましいとしている
  • 賞味期間が3か月を超える商品は、年月表示を検討する
  • 取引先と、納品期限の緩和(2分の1)について話し合う
  • お客様から聞かれたときに、「まだ食べられる期限の目安」を答えられるようにしておく。ガイドラインの見直しの取りまとめでも、望ましい取り組みとされています

つくる会社にとって、返品や廃棄はその分だけ利益を削ります。売上が同じでも、捨てる量が増えて限界利益率(売上から変動費を引いた利益の割合)が下がれば、黒字になるために必要な売上(損益分岐点)は上がります。自社の数字で確かめたいときは、次のツールが使えます。

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損益分岐点のものさし|損益分岐点シミュレーター

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参照した資料

本記事は、食品の期限表示と流通の仕組みを説明する一般的な情報です。期限の設定は、食品の特性と科学的な根拠に基づいて、表示に責任を持つ事業者が行うものです。消費期限を過ぎた食品や、見た目・においに異常がある食品は食べないでください。