ホーム / 読みもの / 天気×判断

天気×判断

降水確率が何%なら傘を持つ?|答えは「損益分岐点」で決まる

2026.11.05 公開 / 2026.11.05 更新

降水確率30%の朝、傘を持って出るかどうか。人によって答えが違うのは、性格だけのせいではありません。「傘を持ち歩く負担」と「降られたときの損」の比が、人によって違うからです。気象庁も紹介している「コストロスモデル」を使って、自分の分岐点を計算してみましょう。

降水確率30%の、本当の意味

気象庁は、天気予報の降水確率について「予報区内で1mm以上の雨の降る確率を、6時間毎に10%単位で発表します」と説明しています。気象庁の子ども向けの解説では、降水確率30%とは、30%という予報を100回発表したとき、そのうちのおよそ30回で1ミリ以上の雨や雪が降る、という意味だと説明されています。

ここから、よくある3つの読み違いが分かります。

  1. 予報区の30%の地域で降る、という意味ではない
  2. 6時間のうち30%の時間だけ降る、という意味でもない
  3. 雨の強さや量とは関係がない。気象庁も「確率が高いと雨量が多くなるという意味ではありません」と書いています。1mm以上なら、小雨でも大雨でも同じ「降った」です

もう1つ、気象庁の予報用語の説明では、確率は0、10、20…100%で表し、そのあいだは四捨五入するとされています。「降水確率0%」は5%未満のことで、1mm未満の降水が予想される場合も「0%」でよい、とされています(実用上は、降りにくい状態に使うのが好ましいとも書かれています)。降水確率0%でも、雨に降られることはあり得るのです。

気象庁は、確率の「答え合わせ」をしている

「30%と言ったのに降らなかった」「20%だったのに降られた」。1回ごとの当たり外れを数えても、確率の予報が正しいかどうかは分かりません。確率は、たくさんの回数を集めて初めて答え合わせができるものだからです。

そこで気象庁は、発表した降水確率と、実際に1mm以上降った割合を比べた結果を公表しています。2026年6〜8月の全国平均では、10%から50%の予報では、実際に降った割合は少なめでした。80%の予報では、やや多めです。40%と発表したときに実際に降ったのは、平均すると10回に3回ほどでした。2025年12月〜2026年2月の冬も、40%の予報で10回に3回ほどです。

つまり、低めの確率のときは、発表された数字より実際は少し降りにくい傾向がありました。ただし季節や地域によって変わるので、「いつも1割引きで読めばいい」というものではありません。ここで覚えておきたいのは、降水確率は、きちんと答え合わせされている数字だということです。

傘を持つかどうかは「割り算」で決まる

ここからが本題です。傘を持って出るかどうかを、損と得で考えてみます。使う数字は2つだけです。

  • C(コスト):傘を持ち歩く負担。荷物になる、手がふさがる、置き忘れる……を、お金に直すといくらか
  • L(ロス):傘を持たずに降られたときの損。服が濡れる、クリーニング代、コンビニでビニール傘を買う……を、お金に直すといくらか

傘を持って出ると、降っても降らなくても、Cの負担が必ずかかります。持たずに出ると、降ったときだけLの損が出ます。降水確率をpとすると、持たないときの損は、平均すると p × L です。

p × L > C なら、傘を持っていく
言いかえると、p > C ÷ L なら持っていく

降水確率が「C ÷ L」を超えたら、傘を持つ。これが答えです。この記事では、C ÷ L を「傘の分岐点」と呼ぶことにします。

この考え方はコストロスモデルと呼ばれ、気象庁も確率予報の使い方として紹介しています。気象庁の例は季節予報(気温の予報)を使ったもので、こうです。低温で野菜が出荷できなくなると100万円の損害が出る会社が、40万円の対策で損害を防げるとします。対策費 ÷ 損害 = 40%なので、「低温になる確率50%」という予報が出たなら、対策をとるほうが得になります。同じ損害でも対策に60万円かかる会社なら、分岐点は60%で、確率50%では対策をとらないほうが得です。

傘を持つ場合と持たない場合の損の比較 0% 20% 40% 60% 80% 100% 降水確率 損(円) 分岐点 20%
持っていく:確率に関係なく C(この例では100円) 持たない:確率 × L(この例では500円)
C=100円、L=500円の例。2本の線が交わる20%が分岐点で、それより右(確率が高い)なら「持っていく」ほうが損が小さくなります。下の計算ツールで数字を変えると、この図も動きます。

この図は、損益分岐点の図とそっくりです。持っていく場合の負担は、確率に関係なく一定(固定費のようなもの)。持たない場合の損は、確率に比例して増えます(変動費のようなもの)。2本の線が交わるところが分岐点です。

同じ30%でも、持つ人と持たない人がいていい

分岐点は、人によって、日によって変わります。3つの場面で計算してみます(金額は説明のための仮の値です)。

場面C
持ち歩く負担
L
降られたときの損
分岐点 C÷L
→ 降水確率30%なら
大事な商談。スーツで、着替えもない100円3,000円約3% → 持っていく
ふだんの通勤。濡れると少し困る100円500円20% → 持っていく
近所のコンビニへ。家はすぐそこ200円300円約67% → 持たない

同じ「降水確率30%」でも、商談の日は持つべきで、近所に行くだけなら持たなくていい。傘を持つかどうかは、確率だけでは決まりません。確率の意味は誰にとっても同じでも、自分のCとLが違えば、正しい答えも違うのです。「何%から傘を持つか」に、決まった正解がないのはこのためです。

折りたたみ傘をいつもかばんに入れている人は、Cをほとんど0にしている人です。Cが0に近ければ、分岐点も0%に近づき、「いつも持っている」のが合理的になります。逆に、荷物を増やしたくない日はCが大きくなり、分岐点が上がります。

会社の判断も、銀行の判断も同じ形

この割り算は、傘以外にも使えます。たとえば、屋外のイベントで雨よけのテントを借りるかどうか(数字は仮の値です)。

  • テントのレンタル代:3万円(C)
  • テントなしで雨が降ったときに失う利益:10万円(L)
  • 分岐点:3万円 ÷ 10万円 = 30%

前日の予報で、イベントの時間帯の降水確率が30%を超えたらテントを借りる、と前もって決めておけば、迷う時間が減ります。ただし気象庁も注意しているとおり、確率を使う良さは、たくさんの回数を重ねたときに表れるものです。1回ごとには「借りたのに降らなかった」ことも起きます。それでも、同じルールで判断を続ければ、長い目で見た損は小さくなります。

実は、傘の割り算は、日本の降水確率予報と同じくらい古い話です。気象庁が1980年6月から東京地方で試験的に降水確率予報を始めるにあたって、日本気象学会の学会誌『天気』に立平良三・保科正男両氏の解説が載りました。そこでは、Cを傘を用意する費用(持ち運びの不便さも含む)、Lを傘なしで雨に遭ったときの損害として、C/Lと降水確率の予報値の大小で判断すれば最も効率的だ、と説明されています。Lは、お年寄りや小さな子ども、着飾った人ではかなり大きく、カジュアルな若者ではごく小さいだろう、とも書かれています。立平氏はのちの著書『気象予報による意思決定』(1999年)でこの考え方を掘り下げ、書評によれば、コンクリート打ちに降水確率を使った事例も紹介しています。

銀行の世界にも、同じ形の計算があります。貸したお金が返ってこない損を見積もる「期待損失」です。国際的な銀行の規制(バーゼル規制)の内部格付手法では、期待損失を、取引先が返せなくなる確率(PD)× 返せなくなったときに失う割合(LGD)× その時点の貸出額など(EAD)で考えます。「確率 × 起きたときの損」という形は、傘も、テントも、貸出も同じです。

掛けで商品を売る会社も同じです。相手が払えなくなる確率と、そのとき失う金額を掛ければ、その取引にどれだけの備えが要るかが見えてきます。

あなたの分岐点を計算する

自分にとってのCとLを、ざっくりお金に直して入れてみてください。正確でなくてかまいません。大事なのは、2つの比です。

あなたの傘の分岐点20%
持っていく場合の負担100円
持たない場合の損(平均)150円

降水確率30%は、分岐点20%を上回っています。傘を持っていくほうが、平均して損が小さくなります。

この「分岐点」の考え方は、会社が黒字になる売上の線を求める計算と同じ形です。自社の数字で損益分岐点を確かめたいときは、次のツールが使えます。

tool

損益分岐点のものさし|損益分岐点シミュレーター

単価・1個あたりの変動費・固定費から、黒字になる販売数と売上を計算します。傘の分岐点と同じく、2本の線が交わる点を探す計算です。無料です。

ツールを開く →

tool

与信判定シミュレーター|決算1期で取引先の安全性

取引先の直近1期の決算の数字から、安全性を業歴・資本構成・損益・償還余力の4つの軸で判定します。相手が払えなくなるおそれを考える手がかりになります。無料です。

ツールを開く →

確率に振り回されないための3つの注意

  1. 自分のCとLを、一度決めておく。「ふだんの通勤なら20%から」と決めておけば、毎朝迷わずに済みます
  2. 出かける時間帯の確率を見る。天気予報の降水確率は6時間ごとです。朝だけ外に出るなら、朝の時間帯の確率で判断します
  3. 大雨の心配は、降水確率では分からない。降水確率は「降るか降らないか」の確率で、雨の強さは表しません。大雨や台風のときは、確率の割り算ではなく、気象庁の警報や自治体の避難の情報に従ってください

3つめは特に大切です。命や財産にかかわる判断は、コストロスの割り算に任せるものではありません。この記事の計算は、傘やテントのように「外れても取り返しがつく」判断のためのものです。

参照した資料

本記事の金額は、説明のための仮の値です。降水確率の精度は季節や地域で変わります。大雨・台風・雷などで身の安全にかかわるときは、この記事の計算ではなく、気象庁の警報・注意報や自治体の避難情報に従ってください。