江戸時代の1両は今いくら?|米なら8万円台、大工なら約70万円になる理由
「十両盗めば首が飛ぶ」という言葉があります。では、その10両は今のお金でいくらなのか。日本銀行の貨幣博物館の換算方法に、2026年の米の値段・金の値段・大工の日当などを当てはめると、1両は約8万5,000円から約70万円まで、8倍以上に開きます。どれかが間違っているのではありません。測る「ものさし」が違うのです。
「1両=◯円」と言い切れない理由
時代劇で「1両」と聞くと、つい今のお金に直してみたくなります。ところが、日本銀行金融研究所の貨幣博物館は、この問いに「簡単には言えない」と答えています。資料が挙げている理由を、短くまとめると次のとおりです。
- 江戸時代は約260年続き、そのあいだにモノの値段は大きく変わった。幕末の開港後は、1年のうちにも大きく上がった
- 社会や経済の仕組みが違い、同じ名前のモノでも、必要とされる度合いや中身が違う
- 材料や作り方が違う。江戸時代には手作業で貴重だったモノが、今は機械で安く作られていることもある
- 金・銀・銭の3種類のお金が使われ(三貨制度)、その交換の比率は毎日動いていた
そこで貨幣博物館は、何で測るかを1つ決めて、それで換算するという方法を示しています。米、大工の手間賃、そば、小判に含まれる金。ものさしを決めれば、計算はできます。答えが割れるのは、計算が間違っているからではなく、ものさしが違うからです。
4本のものさしで、1両を測り直す
まず、貨幣博物館の資料(2017年9月)に出てくる換算の前提と、そのときの計算です。
| ものさし | 江戸時代の前提 | 資料での計算 |
|---|---|---|
| 米 | 1両で米1石(約150kg)が買えた(18世紀) | 5kg 2,100円(2016年末)として、約6万3,000円 |
| 大工の手間賃 | 1両で大工23人を1日雇えた(18世紀後半) | 日当を仮に1万5,000円として、約34万5,000円 |
| そば | 1杯16文、1両=6,500文(江戸後期の公定相場)で、約406杯 | 円への換算は、読む人が今のそば代を入れる形 |
| 金 | 慶長小判に含まれる金は約15g | 金1gを仮に4,500円として、6万7,500円 |
江戸時代の側の前提はそのままにして、今の数字を当てはめてみます。
| ものさし | 1両は | 使った2026年の数字 |
|---|---|---|
| 米 | 約8万5,000円 | 5kg 2,821円(全国のスーパーの平均・税込、10月12〜18日の週) |
| そば | 約32万円 | 1杯800円と仮定(店で食べるもりそばを想定。日銀の資料も、そば代は読む人が入れる形) |
| 金 | 約35万円 | 1g 23,012円(田中貴金属の店頭小売価格・税込、11月5日) |
| 大工の手間賃 | 約70万円 | 1日 30,331円(公共工事設計労務単価・大工の全国の加重平均、3月から) |
計算はどれも単純な掛け算です。米なら 2,821円 ÷ 5kg × 150kg = 84,630円。そばなら(1杯800円として)800円 × 406杯 = 32万4,800円。金なら 23,012円 × 15g = 34万5,180円。大工なら 30,331円 × 23人 = 69万7,613円。いちばん小さい米と、いちばん大きい大工とでは、8.2倍の差がつきました。
「十両盗めば首が飛ぶ」という言葉の10両は、米で測れば約85万円、大工の手間賃で測れば約700万円です。同じ10両でも、ずいぶん印象が違います。
使った数字について:日銀の資料と今回の計算では、元にした統計が違います。たとえば大工の日当は、日銀の資料では厚生労働省の統計をもとにした仮の値、今回は国土交通省の公共工事設計労務単価です。公共工事設計労務単価は所定の8時間あたりの単価で、残業代や、会社が負担する社会保険料は含みません。そば代は、日銀の資料と同じく読む人が決める値なので、ここでは仮に1杯800円としました。どの数字も「目安を出すための計算」であり、厳密な比較ではありません。
なぜ8倍も開くのか
4本のものさしを並べると、ある傾向が見えてきます。人の手間で測るほど、1両は大きく見えるのです。
米:たくさん作れるようになった
江戸時代の米作りは、田植えも稲刈りも人の手でした。今は機械を使い、品種や肥料も改良されて、同じ人手で作れる米の量がまるで違います。たくさん作れるようになったものは、人の稼ぎと比べて安くなります。だから、米で測ると1両は小さく見えます。
大工:1日の仕事は、今も1日の仕事
一方、大工が1日かけてする仕事は、今も1日かかります。道具は良くなりましたが、腕のいい職人の1日の値打ちは、世の中全体の稼ぎと一緒に上がってきました。だから、人の手間で測ると1両は大きく見えます。江戸の人にとって、1両を稼ぐことがどれだけ重かったのかを知りたいなら、こちらのものさしが近いといえます。
そば:モノと手間のあいだ
そばは、そば粉というモノと、打って茹でる人の手間、それに店の家賃などの組み合わせです。だから結果も、米と大工のあいだに収まりました。もう1つ、そばにもいろいろあります。店で食べるもりそばではなく、立ち食いのかけそばで測れば、1両はもっと小さくなります。どの「そば」を選ぶかだけでも、目盛りが変わるのです。
金:市場で値段が決まる資産
金は、米やそばとは別の動き方をします。世界中で売り買いされる資産なので、円での値段は、国際的な金の相場と為替で決まります。2017年の日銀の資料が金1gを4,500円と仮定していたのに対して、2026年11月5日の値段は23,012円。およそ5倍です。慶長小判に含まれる金の量(約15g)は変わっていないのに、金で測った1両は、6万7,500円から約35万円になりました。
もう1つの理由:前提の時期がそろっていない
差を広げている理由は、ほかにもあります。日銀の資料の前提は、江戸時代のどの時期の数字かがそろっていません。米1石は18世紀、大工23人は18世紀後半、1両=6,500文は1842年以降の公定相場、金15gは江戸の初めの慶長小判です。
時期をそろえると、答えは変わります。たとえば江戸の中ごろまでの公定相場(1両=4,000文)なら、そばは250杯で20万円。江戸後期の天保小判(金約6g)なら、金で測った1両は約13万8,000円です。8.2倍という差には、ものさしの違いだけでなく、時期の違いも混ざっています。
米で測った1両は、10か月で約4万8,000円「値下がり」した
ものさしが伸び縮みするのは、江戸と今を比べるときだけではありません。ここ1年の米の値段で、同じ計算をしてみます。
農林水産省が毎週公表している全国のスーパー(約1,000店舗)の米の平均価格は、2025年12月29日〜2026年1月4日の週に5kg 4,416円と、2022年3月に集計を始めて以来の最高値を付けました。その後は、値上がりした週をはさみながらも下がる流れが続き、2026年10月12〜18日の週には2,821円(10週連続の値下がり)になっています。
| 時期 | 米5kgの平均価格 | 米で測った1両 |
|---|---|---|
| 2025年12月29日〜2026年1月4日の週(集計以来の最高値) | 4,416円 | 13万2,480円 |
| 2026年10月12〜18日の週 | 2,821円 | 8万4,630円 |
江戸時代の1両は、もちろん1文も変わっていません。それでも、米で測った1両は、10か月ほどで約4万8,000円も「値下がり」しました。変わったのは1両ではなく、ものさしのほうです。
同じことは、江戸時代の中でも起きていました。貨幣博物館の資料によると、1両で買える米の量は、江戸の初めは約350kg、中ごろから後期は約150kg、幕末には15〜30kgほどでした。今の米の値段(5kg 2,821円)で数えると、江戸の初めの1両は約19万7,000円、幕末の1両は約8,500円〜1万7,000円です。同じ「1両」でも、いつの1両かで10倍以上違います。
どの答えを使えばいいのか
では、結局どの数字が正しいのか。答えは「何を知りたいかで、ものさしを選ぶ」です。
| 知りたいこと | 向いているものさし | 2026年の数字での目安 |
|---|---|---|
| 江戸の人にとって、1両を稼ぐのがどれだけ大変だったか | 大工の手間賃(人の稼ぎ) | 約70万円 |
| 1両で、どれだけ食べていけたか | 米・そば(暮らしのモノ) | 約8万5,000円〜約32万円 |
| 小判そのものに、金属としてどれだけの値打ちがあるか | 小判に含まれる金 | 約35万円(慶長小判) |
時代劇の千両箱の重みを感じたいなら、人の稼ぎで測るのが近いでしょう。千両は、大工の手間賃で測れば約7億円です。一方、「1両で何が買えたか」を知りたいなら、米やそばのものさしが向いています。
これは江戸の話に限りません。「昔はこの値段で売れた」「親の世代の給料は」と比べるときも、物価で割るか、賃金で割るかで、見え方がまったく変わります。国が毎月出している消費者物価指数も、たくさんの品物の値段をまとめて1本にした、ものさしの1つです。数字を比べる前に、まず何で測っているのかを確かめる。それが、数字に振り回されないいちばんの近道です。
あなたの日当で、1両を測る
最後に、大工のものさしを自分に当てはめてみましょう。江戸の1両は「大工23人の1日分」、言いかえれば「職人1人の23日分の稼ぎ」でした。あなたの1日の稼ぎを入れると、あなたにとっての1両が分かります。
月給なら、出勤日数で割った金額を入れてください。例:月給30万円・月20日なら15,000円
1日の稼ぎを出すときに、残業や通勤にかかる時間まで入れると、数字の見え方はさらに変わります。「本当の時給」は、次のツールで計算できます。
tool
時給計算のものさし|実質時給シミュレーター
年収から税金と社会保険料を引いた手取りを、残業と通勤まで含めた時間で割って、本当の時給を出します。買い物の値段が労働何時間分かも換算できます。無料です。
ツールを開く →参照した資料
- 日本銀行金融研究所貨幣博物館「お金の豆知識 江戸時代の1両は今のいくら?」(2017年9月。確認日:2026年11月5日)
- 農林水産省「スーパーでの販売数量・価格の推移」(全国約1,000店舗のPOSデータ、週次)。2026年10月23日公表分(10月12〜18日の週、2,821円)と、2026年1月9日公表分(2025年12月29日〜2026年1月4日の週、4,416円)。数値はNHKの報道(2026年10月23日)、共同通信の報道(2026年1月9日)、日本経済新聞の報道(2026年1月16日。2022年3月の集計開始以来の最高値)で確認
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(2026年2月17日。大工の全国の加重平均 30,331円、所定労働時間内8時間あたり)
- 田中貴金属工業「過去の金価格(2026年)店頭小売価格(税込)」(2026年11月5日 23,012円/g)
- そば1杯の値段(800円)は、当サイトが置いた仮の値です。統計の値ではありません。
- 計算はすべて当サイトによるものです。表の「約」の数字は、目安として丸めています。
本記事の換算は、特定の品目や統計をものさしにして出した目安です。米価・金価格・労務単価は時期や地域、調べ方によって変わります。江戸時代の値段や貨幣の相場にも幅があり、どの換算も「1両の正しい値段」を示すものではありません。