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江戸時代の1両は今いくら?|米なら8万円台、大工なら約70万円になる理由

2026.11.05 公開 / 2026.11.05 更新

「十両盗めば首が飛ぶ」という言葉があります。では、その10両は今のお金でいくらなのか。日本銀行の貨幣博物館の換算方法に、2026年の米の値段・金の値段・大工の日当などを当てはめると、1両は約8万5,000円から約70万円まで、8倍以上に開きます。どれかが間違っているのではありません。測る「ものさし」が違うのです。

「1両=◯円」と言い切れない理由

時代劇で「1両」と聞くと、つい今のお金に直してみたくなります。ところが、日本銀行金融研究所の貨幣博物館は、この問いに「簡単には言えない」と答えています。資料が挙げている理由を、短くまとめると次のとおりです。

  • 江戸時代は約260年続き、そのあいだにモノの値段は大きく変わった。幕末の開港後は、1年のうちにも大きく上がった
  • 社会や経済の仕組みが違い、同じ名前のモノでも、必要とされる度合いや中身が違う
  • 材料や作り方が違う。江戸時代には手作業で貴重だったモノが、今は機械で安く作られていることもある
  • 金・銀・銭の3種類のお金が使われ(三貨制度)、その交換の比率は毎日動いていた

そこで貨幣博物館は、何で測るかを1つ決めて、それで換算するという方法を示しています。米、大工の手間賃、そば、小判に含まれる金。ものさしを決めれば、計算はできます。答えが割れるのは、計算が間違っているからではなく、ものさしが違うからです。

4本のものさしで、1両を測り直す

まず、貨幣博物館の資料(2017年9月)に出てくる換算の前提と、そのときの計算です。

ものさし江戸時代の前提資料での計算
米1両で米1石(約150kg)が買えた(18世紀)5kg 2,100円(2016年末)として、約6万3,000円
大工の手間賃1両で大工23人を1日雇えた(18世紀後半)日当を仮に1万5,000円として、約34万5,000円
そば1杯16文、1両=6,500文(江戸後期の公定相場)で、約406杯円への換算は、読む人が今のそば代を入れる形
金慶長小判に含まれる金は約15g金1gを仮に4,500円として、6万7,500円

江戸時代の側の前提はそのままにして、今の数字を当てはめてみます。

ものさし1両は使った2026年の数字
米約8万5,000円5kg 2,821円(全国のスーパーの平均・税込、10月12〜18日の週)
そば約32万円1杯800円と仮定(店で食べるもりそばを想定。日銀の資料も、そば代は読む人が入れる形)
金約35万円1g 23,012円(田中貴金属の店頭小売価格・税込、11月5日)
大工の手間賃約70万円1日 30,331円(公共工事設計労務単価・大工の全国の加重平均、3月から)
ものさしを変えると、1両はこれだけ変わる(2026年の数字で計算)
米84,630円
そば324,800円
金345,180円
大工697,613円

計算はどれも単純な掛け算です。米なら 2,821円 ÷ 5kg × 150kg = 84,630円。そばなら(1杯800円として)800円 × 406杯 = 32万4,800円。金なら 23,012円 × 15g = 34万5,180円。大工なら 30,331円 × 23人 = 69万7,613円。いちばん小さい米と、いちばん大きい大工とでは、8.2倍の差がつきました。

「十両盗めば首が飛ぶ」という言葉の10両は、米で測れば約85万円、大工の手間賃で測れば約700万円です。同じ10両でも、ずいぶん印象が違います。

使った数字について:日銀の資料と今回の計算では、元にした統計が違います。たとえば大工の日当は、日銀の資料では厚生労働省の統計をもとにした仮の値、今回は国土交通省の公共工事設計労務単価です。公共工事設計労務単価は所定の8時間あたりの単価で、残業代や、会社が負担する社会保険料は含みません。そば代は、日銀の資料と同じく読む人が決める値なので、ここでは仮に1杯800円としました。どの数字も「目安を出すための計算」であり、厳密な比較ではありません。

なぜ8倍も開くのか

4本のものさしを並べると、ある傾向が見えてきます。人の手間で測るほど、1両は大きく見えるのです。

米:たくさん作れるようになった

江戸時代の米作りは、田植えも稲刈りも人の手でした。今は機械を使い、品種や肥料も改良されて、同じ人手で作れる米の量がまるで違います。たくさん作れるようになったものは、人の稼ぎと比べて安くなります。だから、米で測ると1両は小さく見えます。

大工:1日の仕事は、今も1日の仕事

一方、大工が1日かけてする仕事は、今も1日かかります。道具は良くなりましたが、腕のいい職人の1日の値打ちは、世の中全体の稼ぎと一緒に上がってきました。だから、人の手間で測ると1両は大きく見えます。江戸の人にとって、1両を稼ぐことがどれだけ重かったのかを知りたいなら、こちらのものさしが近いといえます。

そば:モノと手間のあいだ

そばは、そば粉というモノと、打って茹でる人の手間、それに店の家賃などの組み合わせです。だから結果も、米と大工のあいだに収まりました。もう1つ、そばにもいろいろあります。店で食べるもりそばではなく、立ち食いのかけそばで測れば、1両はもっと小さくなります。どの「そば」を選ぶかだけでも、目盛りが変わるのです。

金:市場で値段が決まる資産

金は、米やそばとは別の動き方をします。世界中で売り買いされる資産なので、円での値段は、国際的な金の相場と為替で決まります。2017年の日銀の資料が金1gを4,500円と仮定していたのに対して、2026年11月5日の値段は23,012円。およそ5倍です。慶長小判に含まれる金の量(約15g)は変わっていないのに、金で測った1両は、6万7,500円から約35万円になりました。

もう1つの理由:前提の時期がそろっていない

差を広げている理由は、ほかにもあります。日銀の資料の前提は、江戸時代のどの時期の数字かがそろっていません。米1石は18世紀、大工23人は18世紀後半、1両=6,500文は1842年以降の公定相場、金15gは江戸の初めの慶長小判です。

時期をそろえると、答えは変わります。たとえば江戸の中ごろまでの公定相場(1両=4,000文)なら、そばは250杯で20万円。江戸後期の天保小判(金約6g)なら、金で測った1両は約13万8,000円です。8.2倍という差には、ものさしの違いだけでなく、時期の違いも混ざっています。

米で測った1両は、10か月で約4万8,000円「値下がり」した

ものさしが伸び縮みするのは、江戸と今を比べるときだけではありません。ここ1年の米の値段で、同じ計算をしてみます。

農林水産省が毎週公表している全国のスーパー(約1,000店舗)の米の平均価格は、2025年12月29日〜2026年1月4日の週に5kg 4,416円と、2022年3月に集計を始めて以来の最高値を付けました。その後は、値上がりした週をはさみながらも下がる流れが続き、2026年10月12〜18日の週には2,821円(10週連続の値下がり)になっています。

時期米5kgの平均価格米で測った1両
2025年12月29日〜2026年1月4日の週(集計以来の最高値)4,416円13万2,480円
2026年10月12〜18日の週2,821円8万4,630円

江戸時代の1両は、もちろん1文も変わっていません。それでも、米で測った1両は、10か月ほどで約4万8,000円も「値下がり」しました。変わったのは1両ではなく、ものさしのほうです。

同じことは、江戸時代の中でも起きていました。貨幣博物館の資料によると、1両で買える米の量は、江戸の初めは約350kg、中ごろから後期は約150kg、幕末には15〜30kgほどでした。今の米の値段(5kg 2,821円)で数えると、江戸の初めの1両は約19万7,000円、幕末の1両は約8,500円〜1万7,000円です。同じ「1両」でも、いつの1両かで10倍以上違います。

どの答えを使えばいいのか

では、結局どの数字が正しいのか。答えは「何を知りたいかで、ものさしを選ぶ」です。

知りたいこと向いているものさし2026年の数字での目安
江戸の人にとって、1両を稼ぐのがどれだけ大変だったか大工の手間賃(人の稼ぎ)約70万円
1両で、どれだけ食べていけたか米・そば(暮らしのモノ)約8万5,000円〜約32万円
小判そのものに、金属としてどれだけの値打ちがあるか小判に含まれる金約35万円(慶長小判)

時代劇の千両箱の重みを感じたいなら、人の稼ぎで測るのが近いでしょう。千両は、大工の手間賃で測れば約7億円です。一方、「1両で何が買えたか」を知りたいなら、米やそばのものさしが向いています。

これは江戸の話に限りません。「昔はこの値段で売れた」「親の世代の給料は」と比べるときも、物価で割るか、賃金で割るかで、見え方がまったく変わります。国が毎月出している消費者物価指数も、たくさんの品物の値段をまとめて1本にした、ものさしの1つです。数字を比べる前に、まず何で測っているのかを確かめる。それが、数字に振り回されないいちばんの近道です。

あなたの日当で、1両を測る

最後に、大工のものさしを自分に当てはめてみましょう。江戸の1両は「大工23人の1日分」、言いかえれば「職人1人の23日分の稼ぎ」でした。あなたの1日の稼ぎを入れると、あなたにとっての1両が分かります。

月給なら、出勤日数で割った金額を入れてください。例:月給30万円・月20日なら15,000円

あなたの1両(23日分)34万5,000円
十両345万円
千両(千両箱ひとつ分)3億4,500万円

1日の稼ぎを出すときに、残業や通勤にかかる時間まで入れると、数字の見え方はさらに変わります。「本当の時給」は、次のツールで計算できます。

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参照した資料

本記事の換算は、特定の品目や統計をものさしにして出した目安です。米価・金価格・労務単価は時期や地域、調べ方によって変わります。江戸時代の値段や貨幣の相場にも幅があり、どの換算も「1両の正しい値段」を示すものではありません。