決算書のどこを見て与信を判断するか|最初に開く5か所
取引先の決算書を渡された。さて、どこから見るか。 財務分析の本には何十もの指標が載っていますが、実際の与信判断で最初に開くのは5か所です。 そして見る順番にも理由があります。
与信判断は「儲かっているか」ではない
最初に前提を1つ。与信判断で見ているのは、その会社が優秀かどうかではありません。売った代金が期日に返ってくるか、それだけです。
この違いは実務で効いてきます。成長企業でも資金繰りが詰まれば払えません。逆に、成長していなくても手元に現金があり借入が少なければ、当面の支払いは滞りません。投資判断と与信判断は、見るべき場所が違うということです。
だから優先順位は「返済原資はあるか」「時間的な余裕はどれくらいか」の2つに絞られます。以下の5か所は、その順番で並んでいます。
実務メモ:信用調査の現場でよく聞かれたのが「この会社、大丈夫ですか」という質問でした。大丈夫かどうかは取引条件によって変わります。前金なら債務超過の会社とも取引できるし、6か月サイトの手形なら黒字企業でも慎重になる。与信は会社の評価ではなく、取引条件とセットの判断です。
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1か所目:純資産、ただし実質で
最初に見るのは貸借対照表の純資産です。ここがマイナスなら債務超過。資産を全部売っても負債を返しきれない状態で、その時点で警戒度は最大になります。
ただし、額面の純資産をそのまま信じてはいけません。実務では次のものを差し引いて実質純資産を見ます。
- 回収見込みの薄い売掛金。長期間動いていない残高がないか。
- 不良在庫。売れる見込みのない商品が簿価のまま残っていないか。
- 役員貸付金・関係会社への貸付金。返済実績がなければ、実質的に社外へ出たままの資金です。
- 繰延資産や長期前払費用。換金価値がありません。
これらを引くと、額面では黒字の純資産が実質ではマイナスになる会社があります。債務超過は、表面上の数字より一段深いところに隠れていることが珍しくありません。
2か所目:手元流動性
次に、現預金が月商の何か月分あるかを見ます。これが手元流動性です。
会社が倒れるのは赤字だからではなく、支払うべき日に現金がないからです。だから「あと何か月分の余裕があるか」は、赤字かどうかより直接的な危険信号になります。
目安としては月商の1〜1.5か月分を下回ると余裕が薄いと見ますが、業種によって適正水準は大きく変わります。回転の速い小売業と、工期の長い建設業では、必要な手元資金がまったく違います。絶対的な基準はなく、同業他社と比べて初めて意味を持つ数字です。
あわせて、短期借入金の残高も見ます。手元現金が厚く見えても、その大半が短期借入で調達したものなら、実質的な余裕はその分だけ小さくなります。
3か所目:売上債権と在庫の増え方
ここが、実務で最も情報量の多い場所です。
見方は単純で、売上高の伸びと、売掛金・受取手形・棚卸資産の伸びを並べるだけです。売上が10%伸びているなら、売掛金も在庫も10%前後の増加が自然です。
問題は、売上の伸びより売掛金や在庫の伸びのほうが大きいときです。考えられる理由は3つあります。
- 回収が遅れている。売れてはいるが、代金が入ってこない。
- 在庫が滞留している。仕入れたが売れず、倉庫に積み上がっている。
- 売上が実体を伴っていない。架空売上を立てれば、相手方として売掛金が膨らみます。原価を在庫に振り替えれば、利益は出て在庫が膨らみます。
3つ目が、いわゆる粉飾の典型的な形です。損益計算書だけを見ていると絶対に気づけません。貸借対照表と並べて、しかも複数期を並べて初めて見えてきます。
ここが分かれ目:1期だけの決算書では、この判断はできません。売掛金が多いのが元からの体質なのか、今期だけ膨らんだのかが区別できないからです。与信判断で3期分を求めるのは、この比較のためです。1期分しか手に入らないときは、その旨を判断材料の限界として明記しておくべきです。
4か所目:債務償還年数
4つ目は、借入金を何年で返せるかです。
計算はごく単純です。
- 簡易キャッシュフロー =
経常利益 × 0.7 + 減価償却費 - 債務償還年数 =
有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー
経常利益に0.7を掛けているのは、税引後に手元に残る分をおおまかに見るためです。実効税率を約30%と置いた簡便法で、実務で広く使われています。
目安としては10年以内なら健全、20年を超えると厳しいと見ることが多い指標です。ただしこれも業種差が大きく、設備投資の重い業種では長めに出るのが普通です。
この指標が優れているのは、ストック(借入残高)とフロー(稼ぐ力)を1つの数字で結びつけている点です。借入が多いこと自体は問題ではありません。返せる稼ぐ力があるかどうかが問題です。
5か所目:雑勘定
最後は、貸借対照表の目立たない行です。仮払金、立替金、未収入金、役員貸付金、関係会社貸付金。
金額が小さければ気にする必要はありません。しかし総資産に対して無視できない規模になっている場合、そこには必ず理由があります。
- 役員が会社から資金を引き出している
- 関係会社の赤字を親会社が資金で支えている
- 処理しきれない支出を一時的に置いている
いずれも、資産の形をしていますが換金できません。実質純資産の計算では控除する対象です。
そしてもう1つ。この項目について質問したときの反応が、それ自体で情報になります。即座に内訳を説明できる会社と、言葉を濁す会社では、後者のほうが警戒度は上がります。
なぜこの順番なのか
5か所は、ストックからフローへ、そして質へという順番に並んでいます。
| 順 | 見るもの | 答えたい問い |
|---|---|---|
| 1 | 実質純資産 | そもそも財産は残っているか |
| 2 | 手元流動性 | あと何か月もつか |
| 3 | 売上債権・在庫 | 数字は信用できるか |
| 4 | 債務償還年数 | 借入を返す力はあるか |
| 5 | 雑勘定 | 説明のつかない資産はないか |
1と2で「今どうか」を掴み、3で「その数字を信じてよいか」を確かめ、4で「これから返せるか」を見る。5は、それまでの4つに紛れ込んだ嘘を拾う網です。
この5つで判断がつかない場合は、指標を増やしても結論は変わりません。そのときに必要なのは、決算書以外の情報です。
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与信スコア 簡易判定
直近1期の決算数値を入れると、業歴・資本構成・損益・償還余力の4軸で判定します。自己資本比率と債務償還年数の計算も自動。入力はブラウザ内で完結し、送信されません。
取引先を判定してみる →決算書に出てこない、同じくらい重い情報
信用調査の現場で、決算書と同じかそれ以上に重視していた情報があります。
- 決算書を出すかどうか、その姿勢。理由なく開示を渋る、直近期だけ出さない、といった対応そのものが情報です。
- 説明の一貫性。前回聞いた話と今回の話が食い違う。数字の説明を求めると担当者が答えられない。
- 支払条件の変更要請。サイトを延ばしてほしい、手形に変えてほしい。これは資金繰りの悪化が表に出た最初のサインであることが多い。
- 税金・社会保険料の滞納。最後まで払うべきものを止めているなら、資金繰りはかなり切迫しています。
- 主要な取引先や仕入先の変化。取引を切られた、現金取引に変えられた、という話は、同業者のほうが先に知っています。
これらは決算書には1行も出てきません。しかし決算書の数字が悪化として表れるのは、たいていこれらの兆候の数か月から1年後です。順番としては、こちらが先に来ます。
やってはいけない見方
- 売上高だけで判断する。規模と安全性は関係ありません。大きい会社ほど倒れたときの損害が大きいだけです。
- 黒字だから安心とする。黒字倒産は現実に起きます。利益と現金は別物です。
- 1期だけで判断する。水準より変化のほうが情報量が多い領域です。
- 指標を増やして安心する。20個並べても、判断すべき論点が増えるわけではありません。
最後に、与信判断に唯一の正解はありません。自社が取れるリスクの範囲を決めておき、その物差しで測ることのほうが、精緻な分析より重要です。取引先ごとに基準が揺れるのが、いちばん危ない状態です。
参照した資料
- 本記事は公表資料の解説ではなく、企業信用調査および金融機関での実務における判断手順を整理したものです。
- 業種別・規模別の財務指標水準を確認する際は、財務省「法人企業統計調査」(参照日:2026年8月8日)
- 中小企業の財務状況の全体像は、中小企業庁「中小企業白書」(参照日:2026年8月8日)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や与信の可否を推奨するものではありません。記載した目安の数値は業種・規模により適正水準が大きく異なります。最終的な与信判断は、信用調査報告書・面談内容・保全状況等を踏まえ、貴社の基準に沿ってご判断ください。
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