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粉飾の兆候は数字のどこに出るか|売掛金と在庫の増え方を見る

2026.08.08 公開 / 2026.08.08 更新

粉飾決算と聞くと利益の水増しを思い浮かべますが、損益計算書を眺めていても粉飾は見つかりません。操作の痕跡が残るのは、貸借対照表の資産側です。売掛金と在庫の増え方を売上と並べる、それだけで見えるものがあります。

粉飾は「利益」ではなく「資産」に現れる

粉飾決算と聞くと、利益の水増しを思い浮かべます。しかし損益計算書を眺めていても、粉飾はまず見つかりません。利益は結果であって、操作の痕跡はその裏側に残るからです。

複式簿記の性質上、片方だけを動かすことはできません。利益を増やせば、必ず反対側のどこかが増えます。増える先はたいてい貸借対照表の資産、それも売掛金か棚卸資産です。

売上を水増しすれば、代金は入ってこないので売掛金として残ります。原価を圧縮すれば、その分は在庫として残ります。どちらも「換金しにくい資産」に化けて、貸借対照表に積み上がっていく。これが基本の構造です。

逆に言えば、この2つの動きを追えば、損益計算書だけでは見えないものが見えます。

実務メモ:信用調査で決算書を受け取ったとき、私が最初にやっていたのは電卓を叩くことではなく、3期分の売上・売掛金・在庫を縦に並べて書き写すことでした。それだけで、掘るべき会社かどうかがだいたい分かります。指標を計算するのはそのあとです。

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売上と売掛金の伸びを並べる

やることは単純です。3期分の売上高と売掛金(受取手形を含む)を並べ、それぞれの増減率を出します。

パターン売上売掛金見立て
正常+10%+10%前後取引が素直に伸びている
要注意+10%+40%回収が遅れているか、売上が実体を伴わない
要注意横ばい+30%回収サイトが延びた、または不良債権が滞留
好転+10%−5%回収条件が改善した可能性

より分かりやすいのは売上債権回転期間です。売掛金と受取手形の合計を月商で割ると、代金が回収されるまでの月数が出ます。

この数字が年々じわじわ伸びている会社が、いちばん警戒すべき形です。急に跳ねる会社は事情が説明できることが多いのですが、毎期0.2か月ずつ伸びていくような動きは、内部で何かが少しずつ蓄積していることを示します。

説明を求めたときの反応が判断材料になる

数字の動きを見つけたら、質問します。「この期に売掛金が大きく増えていますが、要因は何ですか」。

正常な会社なら即答できます。期末に大口が入った、特定の取引先の支払サイトが変わった、といった具体的な話が出てくる。逆に、内訳が出てこない、担当者によって説明が違う、という場合は、そこを深掘りすべきサインです。

在庫の増え方を見る

売掛金と同じ要領で、棚卸資産も並べます。こちらは棚卸資産回転期間(棚卸資産 ÷ 月商)で見ます。

在庫が膨らむ理由は3つに整理できます。

  1. 売れると見込んで仕入れたが、売れていない。滞留在庫です
  2. 意図的に多く積んでいる。仕入価格の上昇を見越した先行手当てなど、合理的な場合もあります
  3. 原価を在庫に振り替えている。当期の費用を資産に付け替えれば、利益は増え、在庫は増えます

3つ目が粉飾の典型です。売上が伸びていないのに在庫だけが伸び、しかも利益が出ている。この組み合わせが出たら、原価計算の内容を確認する必要があります。

数値で追ってみる

実際に並べると、どう見えるか。単位は百万円で、仮の数字です。

項目第1期第2期第3期
売上高1,2001,3201,400
月商100.0110.0116.7
売上債権200260350
棚卸資産150200280
仕入債務180190200
売上債権回転期間2.0か月2.4か月3.0か月
棚卸資産回転期間1.5か月1.8か月2.4か月

売上は3期で17%しか伸びていません。ところが売上債権は75%、棚卸資産は87%増えています。回転期間はどちらも毎期きれいに伸びている。これが「じわじわ」の形です。

1期だけを見れば、どれも異常な水準ではありません。売上債権2.4か月も、在庫1.8か月も、業種によっては普通です。3期並べて初めて、方向が見える。これが与信判断で3期分を求める理由です。

2つを掛け合わせると精度が上がる

売掛金と在庫を別々に見るより、両方をまとめて「運転資金」として見るほうが実態に近づきます。

売上債権と棚卸資産の合計から仕入債務を引いたものが、事業を回すために寝ている資金です。先ほどの数字で計算すると、こうなります。

項目第1期第2期第3期
売上債権+棚卸資産−仕入債務170270430
第1期からの増加率+59%+153%

売上が17%しか伸びていないのに、寝ている資金は153%増えています。この会社は成長しているのではなく、資金を食われている。そう読むのが正しい姿です。

そしてこの増加分260は、どこかから調達しなければ埋まりません。借入が増えているか、支払を延ばしているか、手元現金が減っているか。貸借対照表の左側で起きたことは、必ず右側に跡が残ります。その対応関係が説明できない決算書は、どこかに無理があります。

粗利率が動かなすぎる会社

もうひとつ、見ておく価値のある指標があります。売上総利益率(粗利率)の推移です。

直感に反するかもしれませんが、警戒すべきは粗利率が乱高下する会社ではなく、何期にもわたって小数点以下までほとんど動かない会社です。

実際の事業では、仕入価格も、製品構成も、値引きの度合いも、年によって変わります。それなのに粗利率が28.3%、28.4%、28.3%と並んでいたら、結果としてそうなったのではなく、そうなるように調整された可能性を考えます。

在庫の評価を動かせば、粗利率は自由に作れます。だからこそ、粗利率の安定と在庫の増加が同時に起きている組み合わせは、いちばん注意して見るべき形です。

「利益は出ているのに現金が増えない」

最も端的な確認方法がこれです。3期分の当期純利益の合計と、現預金の増加額を比べる。

3期で合計1億円の利益を出したはずの会社の現預金が、ほとんど増えていない。設備投資も配当もしていない。だとすれば、その1億円はどこへ行ったのか。

行き先は貸借対照表のどこかにあります。売掛金か、在庫か、貸付金か、あるいは投資その他の資産か。利益と現金のずれを説明できる資産が見つからなければ、そもそも利益が実在していなかった可能性が出てきます。

可能であれば、キャッシュフロー計算書を見るのが確実です。中小企業では作成していないことが多いので、その場合は上の引き算で代用します。粗い方法ですが、方向を掴むには十分です。

数字以外に出る兆候

数字で見つかるのは、たいてい事後です。実務では、それより先に別のサインが出ます。

  • 決算書の提出が遅れる、直近期だけ出さない
  • 会計事務所が変わった。理由が説明されない場合は特に
  • 支払条件の変更を求めてくる。サイト延長、手形への切替え
  • 税金や社会保険料の滞納。最後に止めるべきものを止めている状態です
  • 主要な仕入先が現金取引に切り替えた。同業者のほうが先に情報を持っています
  • 実態のつかめない関係会社との取引が増えた。売上がグループ内で循環していないか

これらは決算書に1行も出てきません。しかし数字に表れるのは、こうした兆候の半年から1年あとです。順序としては、こちらが先に来ます。

見つけたあとにどうするか

粉飾の可能性に気づいたとして、それを証明することは取引先の立場ではまずできません。目的は暴くことではなく、自社の債権を守ることです。

  • 与信限度を下げる。取引をやめるのではなく、抱える金額を減らす
  • 取引条件を変える。サイトを短くする、前金の割合を増やす
  • 保全を取る。担保、保証、取引信用保険
  • 監視の頻度を上げる。四半期ごとに試算表を求める

白か黒かで判断する必要はありません。疑わしさの程度に応じて、抱えるリスクの量を調整する。それが与信管理の実務です。

そして最後に1つ。疑いを持ったことを相手に伝えるかどうかは、慎重に判断してください。根拠が固まっていない段階で指摘すれば、関係を損なうだけでなく、事実と異なれば名誉の問題にもなり得ます。行動は条件の見直しという形で示すほうが、実務的にも安全です。

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参照した資料

  • 本記事は公表資料の解説ではなく、企業信用調査および金融機関での実務における着眼点を整理したものです。
  • 業種別・規模別の回転期間の水準を確認する際は、財務省「法人企業統計調査」(参照日:2026年8月8日)
  • 中小企業の財務状況の全体像は、中小企業庁「中小企業白書」(参照日:2026年8月8日)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の企業の会計処理について判断を示すものではありません。掲載した数値はすべて説明のための仮の例です。記載した見方は与信判断を支援する着眼点であり、粉飾の有無を断定できるものではありません。回転期間や粗利率の適正水準は業種により大きく異なります。最終的な与信判断は貴社の基準に沿ってご判断ください。

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