平均だけ見て判断すると、なぜ外すのか|中央値と分布のかたち
取引先20社の売上を平均したら340万円。しかし、その金額に当てはまる会社は1社もない。平均は便利な要約であると同時に、事実を隠す道具でもあります。
平均は、たった1件で動く
取引先20社の売上を並べたとします。19社が月100万円前後、1社だけ月5,000万円。この21社の平均は約340万円です。
この340万円という数字が当てはまる会社は、1社もありません。19社にとっては高すぎ、1社にとっては低すぎる。それでも「平均取引額は340万円です」という報告書は作れてしまいます。
平均は、すべての値を足して個数で割ります。だから外れた1件の影響を、そのまま全体に薄めて配るという性質があります。便利な要約であると同時に、事実を隠す道具にもなります。
実務メモ:信用調査で決算書を見ていた頃、「平均」で語られる数字はほぼ必ず内訳を確認していました。平均月商、平均単価、平均回収期間。平均が実態を表しているのは、分布が左右対称で山が1つのときだけです。そしてビジネスの数字は、その条件をほとんど満たしません。
sponsored
実務の数字は、たいてい右に歪む
下限があって上限がない数字は、必然的に右へ裾を引きます。売上はゼロより下がありませんが、上には青天井です。
| 数字 | 下限 | 上限 | 分布のかたち |
|---|---|---|---|
| 取引先別の売上 | 0 | なし | 右に長い裾 |
| 1件あたり受注額 | 0 | なし | 右に長い裾 |
| 売掛金の回収日数 | 0日 | なし(不良債権) | 右に長い裾 |
| 従業員の年収 | 0 | なし | 右に長い裾 |
| 在庫の滞留日数 | 0日 | なし | 右に長い裾 |
こうした分布では、平均は中央値より必ず大きくなります。そして「大多数の実態」に近いのは中央値のほうです。
平均と中央値の差が、そのまま歪みの大きさ
だから実務では、この2つを並べて出すのが基本になります。
- 平均 ≒ 中央値:分布は対称に近い。平均で語ってよい
- 平均 > 中央値:右に歪んでいる。少数の大口が全体を押し上げている
- 平均 < 中央値:左に歪んでいる。実務では比較的珍しい形
差が大きいときは、「何がその差を作っているのか」を特定するところまでが仕事です。特定の大口取引先なのか、一時的な特需なのか、それとも入力ミスなのか。
与信の現場で、これが事故になる
もっとも危ないのは、平均を使って基準を作ってしまうことです。
たとえば「取引先1社あたりの平均取引額は340万円だから、与信枠は一律500万円にしよう」。一見もっともらしい設計ですが、実際には19社に対して過大な枠を与え、1社に対しては全く足りていません。
枠が過大な取引先が19社あるということは、そのぶん焦げ付いたときの損失も膨らむということです。使われない枠は無害だと考えられがちですが、与信管理では枠そのものがリスクの上限を意味します。
回収期間でも同じことが起きる
売掛金の回収日数を平均で見て「当社の平均回収日数は45日」と言ったとします。しかし内訳が、
- 90社が30日で回収
- 10社が180日を超えて滞留
という形なら、実態は「ほとんど順調だが、10社が焦げ付きかけている」です。平均45日という数字は、その10社の存在を消してしまいます。
与信で見るべきは平均ではなく、裾のほうに何社いるかです。分布の右端に集まっている取引先が、次の貸倒れ候補になります。
分布を見るための3つの道具
ヒストグラム
数字を区間で区切って、それぞれ何件あるかを棒で並べます。山がいくつあるかを最初に見てください。
山が2つあれば、それは性質の違う2つの集団が混ざっているサインです。法人と個人、既存と新規、都市部と地方。混ざったまま平均を取っても意味がありません。分けてから集計し直すのが正しい対応です。
箱ひげ図
中央値、上下25%の位置、そして外れ値を1枚で示します。複数のグループを横に並べて比べるときに最も効きます。
支店別の売上、担当者別の受注額、業種別の回収日数。箱の位置がずれているのか、箱の大きさ(ばらつき)が違うのか、それとも外れ値だけが違うのか。「差がある」と言うとき、何が違うのかを特定できます。
四分位数とパーセンタイル
データを小さい順に並べ、下から25%、50%、75%の位置にある値です。
与信で使うなら、「回収日数の上位10%は何日か」という見方が実用的です。平均ではなく、悪いほうの端がどこにあるかで基準を作る。こちらのほうが、リスク管理の考え方に合っています。
「平均」を疑うための質問
誰かが平均を持ってきたとき、次の3つを聞けば、たいていの誤りは見つかります。
- 「中央値はいくつですか」。差が大きければ歪んでいます
- 「最大と最小はいくつですか」。範囲が分かれば外れ値の見当がつきます
- 「n はいくつですか」。5件の平均と500件の平均では、意味がまるで違います
3つ目は特に見落とされます。「平均◯◯%」と書かれていて、母数が3件だったという資料は珍しくありません。
ここが分かれ目:平均が悪い指標なのではありません。分布のかたちを確かめずに平均だけを使うのが問題です。対称で山が1つなら、平均は最も情報量の多い要約になります。まず絵にして、それから数字を選ぶ。この順番を逆にしないことです。
平均の平均を取ってはいけない
もうひとつ、実務で頻繁に起きる誤りがあります。すでに平均された数字を、さらに平均することです。
支店Aは100件の受注で平均単価1万円。支店Bは10件で平均単価10万円。では全社の平均単価は。
| 計算方法 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 単純平均(誤り) | (1万 + 10万) ÷ 2 | 55,000 円 |
| 加重平均(正しい) | (100×1万 + 10×10万) ÷ 110 | 18,182 円 |
3倍の開きが出ます。単純平均は、100件の支店Aと10件の支店Bを同じ重みで扱ってしまうためです。
正しくは、合計金額を合計件数で割る。当たり前に見えますが、支店から上がってきた報告書に「平均単価」しか書かれていないと、件数が失われた状態で集計が進みます。
同じ誤りは、部門別の利益率を平均するとき、月次の稼働率を平均するとき、業種別の回収日数をまとめるときにも起きます。比率や平均を集約するときは、必ず元の分母を持ってくる。これが鉄則です。
成長率の平均は、足して割ってはいけない
もうひとつ、財務の現場に特有の落とし穴です。
売上の成長率が3期連続で +50%、−20%、+10% だったとします。平均成長率は何%でしょうか。
足して3で割れば +13.3%。しかしこの数字で3年分を計算すると、売上は 1.456倍 になるはずです。
実際はどうか。1.5 × 0.8 × 1.1 = 1.320。1.32倍です。算術平均は実態より1割以上、成長を過大に見せています。
正しくは幾何平均を使います。
- 幾何平均 =
(1.5 × 0.8 × 1.1)^(1/3) − 1 = +9.7% - 検算:
1.097³ = 1.320✓ 実際の倍率と一致
掛け算で積み上がる数字(成長率、利回り、為替)は、足して割ってはいけません。算術平均は必ず幾何平均以上になり、変動が激しいほど差が開きます。
投資信託の「平均リターン」や、事業計画の「年平均成長率」が実感と合わないとき、この計算方法が原因になっていることがあります。CAGR(年平均成長率)と書かれていれば幾何平均ですが、単に「平均成長率」とある場合は、どちらで計算したかを確認する価値があります。
まず、絵にしてみる
ここまで書いてきたことは、結局ひとつに集約されます。集計する前に、分布を見る。
表計算ソフトで平均を出すのは一瞬ですが、ヒストグラムを描くには少し手間がかかります。その手間を省いた結果、山が2つあることに気づかないまま報告書が出来上がる。実務でよくある事故の形です。
逆に言えば、絵にするコストさえ下がれば、この種の誤りはほとんど防げます。
そしてもう1つ。平均という言葉が出てきたら、「何を、どういう重みで、どの計算方法で平均したのか」を確かめる。この記事で挙げた誤りは、すべてその確認を省いたところから生まれています。難しい統計の知識は要りません。分母は何か、分布はどんな形か、掛け算か足し算か。この3つを毎回聞くだけで、実務の事故はかなり減ります。
try the tool
STATLAB 統計分析ダッシュボード
CSVを読み込むと、平均・中央値・四分位数を一度に表示し、ヒストグラムと箱ひげ図をその場で描きます。分布の歪みや山の数を目で確かめてから、使う指標を選べます。処理はすべてブラウザ内で完結し、データは送信されません。
手元のデータで確かめる →参照した資料
- 本記事は公表資料の解説ではなく、企業信用調査および金融機関での実務における数値の扱い方を整理したものです。
- 業種別・規模別の財務指標の分布を確認する際は、財務省「法人企業統計調査」(参照日:2026年8月9日)
- 中小企業の財務状況の全体像は、中小企業庁「中小企業白書」(参照日:2026年8月9日)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、統計手法の学術的な厳密性を保証するものではありません。掲載した数値はすべて説明のための仮の例です。実際のデータ分析にあたっては、対象データの性質と目的に応じて適切な手法をご選択ください。
sponsored